東日本大震災が生活のあり方に関する考え方を大きく変えたといわれます。原子力発電に頼るような贅沢な消費に反省が生まれ、「エコ」「家族」などが見直されました。私たちの「家計」についても、改めて見直す必要があります。

 「貯蓄から消費へ」という政府が唱えたお題目によって、銀行でも投資信託が販売されるようになり、「預貯金から投信へ」と大きく資金を移してみたものの、世界的な株安や債券市場の混乱によって、投資資金を大きく目減りさせてしまった人たちが少なくありません。一方で、「年金削減」「消費税増税」など、私たちの暮らしを支える国の仕組みは、将来に向けて一段と厳しくなっていきそうです。社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんを迎えて、ゼロから「家計の新しいルール」を考えました。

楽をしてお金が貯まり続ける「新しいルール」を始めよう

2011年は東日本大震災、そして高水準の円高などと、これまでにない大きな変化を経験しました。その経験を経て、私たちの生活や「お金とのつき合い方」も大きく変わらなければならないように感じますが、いかがでしょう?

 新しい時代が始まったと思います。これからの時代を2つの面から捉えておく必要があります。まず、一生涯の面倒を見てくれるような就職先はなくなってしまったということを受け入れましょう。これからは、積極的にお金を稼ぐという姿勢が、これまで以上に求められます。その一方で、万が一の場合の公的生活保障にも頼れなくなってきました。個人・家族にとって、これまで以上に厳しい時代がやってきたということです。逆に、これまでがあまりにもラッキー過ぎたのかもしれません。

 もうひとつは、働く場そのものが国境を超え、アジア化、国際化しています。もし、日本から離れて海外で生活するようになれば、ますます家計の運営能力が問われることになります。身についた家計運用能力が求められているのです。

 というと、非常に難しいような印象を持たれるかもしれませんが、実際はシンプルなものです。これまでの現状を素直に検証し、問題点を把握するとともに、ゼロから考え、リセットすることです。

ゼロから考えるとは、どういうことですか?

 まず、お金と正面から向き合うことです。自分の生活の中で、毎日お金がどのように動いているか、詳細に知ることです。ただ、一生涯にわたってお金の流れを知るという必要はありません。ここ2、3年、お金の流れを知り、体感できるようになれば良いわけです。具体的には、最初の2、3年、家計簿をつけることです。

家計簿をつけることには、ものすごく抵抗があります。いちいちレシートを保存したり、それを転記したりするなど、考えるだけで気が滅入ります。

 家計簿をつけたいと思う人は多いのですが、実際に毎日つけるとなると100人いれば、実行している人は数人ほどでしょう。しかし、人生には、集中して事に当たる時、時代があります。その時がやってきたと思いましょう。

 お金の流れを詳細に把握することが大事なのです。それができれば、自分に合った「お金のルール」を作ることができます。たとえば、今のあなたの住宅ローン支払い額は月間の手取り収入の何%ですか? あるいは、毎月の保険料は手取りの月給の何%か答えることができますか? 一年前の給料と比較して、社会保障費がどのくらい増えたのか実際の金額で答えることができますか?

 大事なことは、収入と支出というお金の流れをキチンと把握することです。収入よりも支出が少なければ、残ったお金を貯蓄することができます。そして、お金の流れが把握できれば、実は誰でも貯蓄に回せるお金が出てくるのです。私が相談をお受けした方々は、一人の例外もなく、収入と支出を明確に把握することによって、貯蓄を始めることができるようになりました。

しかし、貯金だけが人生ではないでしょう。無理して貯金ばかりしていたら毎日がつまらなくなりそうです。

 もちろん、人生、すべてお金のためということはありえません。何かをするために、お金はあるのですから、自分にとって大切なもの、それが何かをはっきりとさせておくことは大事なことです。例えば、定年の歳になり、働くことを辞め、悠々自適の生活に入ると考えるとしましょう。定年後に働かないでよいようにするためには、今から何をすれば良いのかを考えましょう。目標が決まれば、家計のルールは意外と簡単に設定することができるようになります。ただし、目標もルールも安易に変更してはいけません。無理な計画を立てると続けることができなくなり、貯金のために生活を切り詰めたり、窮屈な生活にもなります。私は、そんな無理なルールを作ろうとは思っていません。

 新しいルールの基礎は、家計というお金の流れを把握することから始まります。完全に把握するためには、せめて2年-3年は家計簿をつけ、実際の金額を把握するということが必要です。その期間は数年あれば良いということなのです。家計簿をつけたくない方のために、簡便な方法もありますが、いずれは、キチンとお金の流れを把握するために家計簿をつけることを考えてほしいと思います。

お金を貯めたいとは思っているのですが、具体的にどうすればよいのですか?

 まず、収入のことを考えましょう。収入を増やすということは、自分の稼ぎを増やすか、稼ぎ手を増やすかという方法が王道です。もちろん、遺産相続など一時的な収入はあるかもしれませんが、それは当てにできるものではありません。一番確実なのは自分で働き収入を得るということです。そのためには、自分に投資するという方法もあります。どこででも働きお金を稼げる技術の習得やキャリアアップを図ることです。現在の仕事で増収を期待できないとしても、将来にわたり収入の確保につながる側面から実力を積み上げるという方法です。

 一方、支出の面からは、不要な支出を抑えるということに尽きます。人間は感情の生き物といわれ、感情的な支出というものがあります。感情的な支出の半分を抑えることができれば、確実にお金は残ります。また、いつの間にかお金がなくなっていたという場合があります。何に使ったのか不明なので、私は「使途不明金」と名付けています。この不明を明らかにするだけで、お金は残ります。しかし、もっと効果のあるお金の残し方もあります。具体的にはのちほど触れることにしましょう。

 ここで大事なことは「長期で考える」ということです。「新しいルール」は、長く楽な方法で、習慣化してコツコツ続けていくことができるということがもっとも大事なことといえます。

ここがポイント

◎無理せず自然とお金が貯まる自分に合った「お金のルール」を作る
◎毎月のお金の出入りをキチンと把握することが、ルールの第一歩

プロフィール

井戸美枝

井戸美枝

井戸美枝事務所代表
ファイナンシャルプランナー CFPR
社会保険労務士・キャリアカウンセラー

講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、資産運用、ライフプランについてわかりやすくアドバイスしている。経済エッセイストとしても活動中。「定年前後 困らないお金の付き合い方」(PHP研究所)など著書多数。